動と静、対照的なアートに“でくわす”
「田中 泯 場踊り」/「漆芸家 楠田直子展 ‐満月の海‐」
(記)柏木じゅん子 2008.11
アートラインも終盤に差し掛かった11月23日(日)の午後、ハウディモールにて田中泯さんによる「場踊り」が行われた。 田中泯さんは俳優としても活躍中の舞踏家で、映画『たそがれ清兵衛』、『メゾン・ド・ヒミコ』などにも出演なさっている。
場踊り1
薄曇りの空の下、ハウディモールに真っ赤な衣を身にまとった田中さんが現れた。 宙を見据え、衣を翻してゆるやかに舞い、下駄を脱いで地を這う。 最初は遠巻きに眺めていた人たちも、しばらくすると、その輪をせばめて田中さんの「場踊り」を見守り始めた。
場踊り2
「何をやってるんだろう?」「どんな意味があるのかな?」と首をひねりながらも、 田中さんの一挙手一投足から視線を離すことができず、後を追う人も多い。
場踊り3
「場所で踊るのではなく場所を踊る」という「場踊り」。 その踊りに意味や解釈を与えようとするのはナンセンスかもしれないが、 田中さんの踊りは太古の昔、自然と共生していた頃の人間の姿に重なる気がする。 かつて、人々は太陽・月・海・山・動植物など森羅万象に<カミ>が宿ると考え、 <カミ>との交感を果たすために様々なことを行った。 極限まで身体感覚を研ぎ澄ませて、森羅万象の<カミ>に感応する舞踏もその一つである。
場踊り4
田中さんの「場踊り」が異彩を放っているのは、モノと情報の氾濫やバーチャルリアリティーの急速な発展の中で、 現代人が失いつつある「身体感覚」に全てを委ねているからではないだろうか。 自己も他者も“生きている”という「生の感覚」すら希薄になっている現代社会の中で、 「身体感覚」を唯一の頼りに「その場を踊る」姿は、「生きるとは何か」という根源的な問いを投げかけているようにも思える。 だからこそ、不可思議であると同時に、強力な引力を持って多くの人々を引き寄せたのだろう。
田中泯さんによる「場踊り」が終わり、アートラインもいよいよ最終週に突入。 サンサン通りにあるギフトショップ「P&P」では、アートライン企画のひとつ、 石川美穂子さんによるプロジェクト「ここに秋みぃ〜つけた!! オータムパレット」のペットボトルを再利用した「紅葉」が壁面を色鮮やかに彩っている。
オータムパレット
その「P&P」の 2階にて、11月25日(火)〜30日(日)までの6日間、漆芸家 楠田直子さんの作品展「満月の海」が開催された。
満月の海1
2階へ上がると、そこには静かな幽玄の世界が広がっていた。 漆というと重箱・盆・杯など硬質なイメージがあるが、楠田さんの作品の中には柔らかい布を思わせるものも多い。 文字通り「夜の帳」の如き夜空に、静謐な光をたたえる満月が浮かび、揺れる海面を淡く照らし出している作品「満月の海」が印象的だった。
満月の海2
楠田さんにお話を伺ったところ、イタリア留学中に「漆」と出会い、その魅力に惹かれたのが漆芸を始めたきっかけとのこと。 漆は日本では古来より用いられ、漆器は日用品としても馴染み深い存在だが、 海外で出会う「漆」は、日本にいるとき以上に鮮烈な印象を与え、日本人の心に響くものなのかもしれない。
満月の海3
また、楠田さんから「漆」の特性についても教えていただいた。 楠田さんは、漆で出来た接着剤を使って麻布や和紙などを型に張り付け、 形が整ったところで型を外し漆を塗り重ねる「乾漆(かんしつ)」という技法で制作なさっているが、 漆を乾かすときには適度な「湿度」が必要になるそうだ。「この湿度の調整が難しくて・・・。 湿度によって色も変わってしまうので、思っていたのと違う色に仕上がることもあるんですよ。」と楠田さん。
満月の海4
そのように繊細な「漆」という素材を扱い、作業工程を全て一人でこなしている楠田さんのお話を伺うと、 作品を「制作する」というよりも、むしろ、手塩にかけて作品を「育てている」と言った方が相応しい気がする。 今回の作品展では「満月の海」の他にも、一輪挿しやキャンドルスタンドなど様々な作品を拝見して、漆の美しさ・奥深さに改めて気付かされた。
満月の海5
田中泯さんの「場踊り」が “動” のアートとすると、 楠田直子さんの作品は “静”のアートと言える。 「アートライン2008」が開催された1ヶ月の間、様々なアートに遭遇してアートと街の化学反応を楽しんできたが、 最後に“動”と“静”という2つの対照的なアートに<でくわし>、普段当たり前のように接していた「身体」や「漆器」 の新しい可能性を知ることができたのは、とても幸運だったと思う。

◆ 田中泯さんのHP「Min Tanaka 田中泯WebSite」→ http://www.min-tanaka.com/
◆ 楠田直子さんのHP「乾漆工房・直」→ http://www.kanshitsu.com/index.shtml